書きかけの地球滅亡への鎮魂歌【オリヂ】僕らの先祖は、よく話のネタにこんな質問を言っていたらしい。「もし、地球が滅びてしまうとしたら、貴方はどうする?」 よっぽどそうならないと自信があったんだな、と思う。だって今となっては、その話は冗談では済まされない領域まで来ているんだから。 地球滅亡へ向けて 丁度千年前は、僕らの住む国…日本では、文明の発展が目ざましかったらしい。今となっては、そんな話、信じようにも信じられないけれど。今、僕らの国『日本』は、当時の日本とは百八十度違う方向へと進みつつあるんだから。 今、地球は限りなく滅びの道へと進んでいる。それも、昔の人達が自分達の過ちに気づいた時よりも、遥かに。 その証拠は、まず一つに「気温」がある。冬の気温が、四十度。夏の気温が、最高で七十度にまで上がる。千年前なら、冬の気温が〇度だったり、夏の気温も最高で三八度だったりと、生易しいものだったのに。これは、昔の人々が自分達の事しか考えないで、好き勝手に行動した所為だと思っている。もしタイムマシンがあったなら、僕はひいひいひいひいひいじいちゃんとか、ひいひいひいひいひいばあちゃんとか、昔の人々を抹殺するだろうに。 僕らの時代になってもまだタイムマシンが出来ていないのかというと、実はそうじゃない。とっくのとうに開発が終わり、タイムマシンは完成した。だけど、それを使って過去や未来の出来事を改ざんする事件が多発して、「タイムマシン使用禁止令」が作られてしまったのだ。そうしてタイムマシンは闇へ葬られてしまった、って訳。それが今から二〇年前の話。 更に遡ると、僕が生まれる五〇〇年前、日本はある国と大戦争をした。その相手国は、当時兄弟のように親しくしていた「アメリカ」という国だ。その当時の日本には、武器を手にとって他国と戦うのは禁じられていた。だから、アメリカからその戦争はふっかけられた。その原因は、日本の発展だ。教科書にそう書いてある。アメリカは、日本がいずれアメリカを追い越していくのが恐ろしかったのだ。優秀な兄が、段々と優秀になっていく弟の未来を妬み、殺してしまうのと一緒だ。その結果、日本は負けてしまった。アメリカの武力は、それだけ凄かったって事。日本は、それから一〇〇年間、アメリカの支配を受け、植民地となり、日本としての発展をストップされてしまった。そうして、僕らの国「日本」は、段々と弱体の一途を辿る。能だの歌舞伎だの相撲だの、そんなものは全て廃止され、日本らしく生きていく権利を迫害され、今に至る。環境も、アメリカが色々荒らしていった所為で、木というものすら生えなくなってしまった。植物なんてのは、もっての他だ。だから僕は、それらを写真や、辞典でしか見た事が無い。今の日本は、荒地ばかりが広がり、閑散としている。少しでも昔の日本の姿に近づこうと、政府やお役人さんが必死で画策しているらしい。でも、やはり手遅れだ、という声が随所で聞こえる。もう、この国を捨てて、他国へ移住するしかない。でも、皆この国を捨てきれない。例えどれだけ酷い有様でも、この国が復活する事を信じているから。 かと言っても、全ての人がそう思っている訳でも無い。一部では「日本破滅同好会」やら、「他国移住推進委員会」とか、兎に角現状を甘んじて受け入れる人達も居る。酷い人だと、『どうせ、地球は破滅に向かってるんだし、何をしても良いや』という考えの人も居る。そういう人は、自殺したり殺人をやったり、恐喝をしたり盗みをしたり、と思い思いの行動を取っている。本能に忠実になっているのだ。彼らは主に「クレイジー」と呼ばれる。狂気の人、という意味らしい。五〇〇年前の戦争が終わってからは、ずっと英語を使うのを皆恐れていたのに、彼らにだけはこの言葉を宛てた。どうやら、侮蔑の意味を含んでいるらしい。 僕達日本人は、地上では暮らせない。地上は、植物が一切生えていない為、僕達の吐く二酸化炭素が浄化されないからだ。僕らは、地下にシェルターを作って、其処にひっそりと暮らしている。酸素ポンプによって、定期的に中の空気は浄化される。地下だけど、やっぱり夏はさっき言った位の温度になるし、冬もそうだ。 でも、本屋もあるし、CDショップもある。レストランも、ホテルも。八百屋さんだって。床屋だってあるし、娯楽施設も、学習施設も、何だって充実してる。多分、その点で言えば千年前の人々と同じ…いや、それ以上の生活が出来ているはず。だけど。日本らしさ、なんてそこには一欠けらも無い。日本らしさ、なんて僕は知らないけど、これはきっと本来の日本じゃあないはずなんだ。昔の人達の手記とか、よく古典で読まされるけど、やっぱりそこには独自の発展が綴られていたもの。 「行ってきまーす。」 僕は、今まで食べていたご飯をテーブルの上に置いて、学生鞄を手に取った。学校へ行く時間だ。歯磨きなんて要らない。僕らの食べ物には、全て砂糖は使われていない。キシリトールの天然の甘みが使われていて、歯に悪いものなんて一切入ってない。着色料も、使用禁止とされ、元来の製造方法に戻った。だから僕達の世界では、歯医者はいつだって儲からないんだ。時々親不知を抜きに来れば良い方なんだって。友達の家が、先祖代々伝わる歯医者さんをやってるんだけど、ほとんど開店休業だそうだ。それってちょっと切ないね、と僕は確か話した。友達は、絶対に歯医者にはならない、と言って、将来の夢を語っていた。その子は、アナウンサーになりたいらしい。 でも、どうせ地球が滅びてしまうのに、夢なんて持ってて意味があるんだろうか。 僕は、不謹慎にもそう思ってしまった。こんな、未来も希望も枯れ果てた大地の上で、夢を持つなんて、お笑い種じゃあないか。流石にそこまでは言えなかったから、「君なら叶えられるよ。」とお世辞を言っておいた。世の中なんて美辞麗句で何とかなるものなんだから。案の定、友達はにこにこと微笑んで「ありがとう。」と返したんだっけっか。 学校へ行く途中、僕は少し寄り道をする事にした。空き地だ。昔の人達が見ていた「アニメ」という娯楽番組で、「ドラえもん」というものが流行していたらしい。昨日、社会の授業でそれを「テレビ」という昔の人達が好んで使った機械で見た(僕達はパソコンを媒介として情報や映像をやりとりしている)。中々面白いから、原作が知りたい、見たいと思った僕は、その日の内に古本屋を漁って「ドラえもん」を大量に購入した。未来の世界を予想した漫画なのだが、いやはやこれが実に愉快で、僕は徹夜して読み耽ってしまったのだ。その中に出てくるキャラクター達が入り浸る空き地と、僕の家の側の空き地が酷似していた為、興味本位の寄り道だった。そこで僕は、驚くべき光景を目の当たりにした。 「タイム…マ…シーン……?」 今では全く日の目を見る事の無いタイムマシーンが、僕の目の前にあった。それは、時点の写真で見るよりもずっと鈍い色を解き放ち、周囲に時空の歪み(ひずみ)を生み出していた。まだエンジンが稼動している。誰かが今まで使っていたんだろう。慌てて駆け寄ると、僕はそっと機械に触れた。刹那、淡く眩い光に包み込まれた。 「イツノトシノ、ナンガツナンニチニイキマスカ?」 タイムマシーンが、温かくもなく冷たくもない声で僕に囁いた。 僕の心は、決まっていた。千年前の日本が見たかった。文明が最も発達していた頃。まだ気温もそんなに高くなかった頃。人々が、きっと今よりは活気に溢れていた頃。そう思うと、胸が熱くなる。暫くして、言葉を紡いだ。 「千年前の、今日。」 次の瞬間、僕は「現在」から消えていた。そこにあるのは、「僕が消えた」という事実だけ。 |